小児の咳止めに科学的根拠なし?その2
咳止めについてお話しましょう。その2です。
(書籍「小児のかぜの薬のエビデンス」から改変しながら説明)
繰り返しになりますが、
咳止めの薬には2種類あって、脳の咳中枢というところに作用して咳をおさえようとする「中枢性鎮咳薬」と去痰、気管支拡張作用を通じて咳を抑えようとする「末梢性鎮咳薬」があります。
中枢性鎮咳薬、は大きく2種類にわけることができ
麻薬性と非麻薬性に分けられます。
麻薬性 :コデインなど
非麻薬性:デキストロメトルファンやチペピジンなど
前回は麻薬性の咳止めについてお話しました。
今回は非麻薬性のうち、デキストロメトルファンの話をしましょう。この成分を含んだ市販薬は多数あります。
- キッズバファリンかぜシロップ
- パブロンキッズかぜシロップ
- ノスポールこどもかぜシロップS
- こどもせきどめシロップSa
- カコナールこどもシロップs
などがあります。一部のシロップは生後3ヶ月以上から内服可能になっています。
市販ではなく、処方箋が必要な薬としてデキストロメトルファンが含まれているものは
- メジコン
- アストマリ
- シーサール
などがあります。ジェネリックが増えたいまでは、そのまんま「デキストロメトルファン」という処方薬もみかけます。
しかし、どんな薬でもそうですが副作用のない薬はありません。
めまい、口渇、眠気、食欲不振、便秘、頻脈などがデキストロメトルファンの副作用です。
モノアミン酸化酵素阻害薬と一緒にのむとセロトニン症候群という病気になることがあるので、禁止にされています。
モノアミン酸化酵素阻害薬とは、抗うつ薬や抗パーキンソン病薬として用いられる薬ですが、日本では、かつて抗うつ薬にも使われたのですが、現在では抗パーキンソン病薬として使われる薬です。今回は子どもの風邪についての咳止めなので、基本的には一緒にのむようなことはないと考えていいでしょう。
デキストロメトルファンは比較的、つよい咳止めというふうに教わった記憶があるのですが、研究結果をみるとそうでもなさそうです。
Paul IM, et al. Pediatrics. 2004;114:e85-e90. PMID:15231978
2004年にピッツバーグで、2-18歳の小児の咳を対象にした研究です。
研究結果をみると、デキストロメトルファンを使用したグループも、プラセボ(偽の薬)を使用したグループも咳の症状の改善推移は同じくらいでした。
フィンランドで1-10歳の小児を対象におこなわれた研究です。
Korppi M, et al. Acta Paediatr Scand.1991;80:969-971. PMID:1755308
この研究では、プラセボ(偽の薬)、デキストロメトルファン、デキストロメトルファン+サルブタモール(気管支拡張薬という咳止め)で比較しましたが
どれをのんでも同じで、この3種類で薬をつかったからといって有効性があるという確認ができませんでした。
またハチミツ、デキストロメトルファン、プラセボの3種類で比較した研究があります。
Paul IM, et al. Arch Pediatr Adolesc Med. 2007;161:1140-1146. PMID:18056558
米国で2歳以上の小児を対象に行われた研究です。
結果は ハチミツ>デキストロメトルファン>プラセボ の順番で強そう、というものでした。
最後に2013年インドから報告された研究報告です。
Bhattacharya M, et al. Indian J Pediatr. 2013;80:891-895. PMID:23592248
デキストロメトルファンとプラセボ(偽の薬)を使用して、3日後の咳の症状、夜の睡眠、咳での嘔吐などを評価しました。
この結果ではデキストロメトルファンを使っても症状が改善するわけではなさそうでした。
それよりも副作用の頻度を比べると、当たり前ですが薬であるデキストロメトルファンのほうが副作用報告が多いのです。
小児においては、偽の薬と咳止め効果がかわらないのに、副作用だけが多いのがデキストロメトルファン、のようです。