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こどもの鉄欠乏

[2022.11.30]

小児科医の杉原です。こどもの健康週間2022 より転載いたします。体育や学業の成績をあげたいとおもっている人、ときには鉄欠乏を治すことが効果をあげることにつながる場合があります。

吉野浩(杏林大学小児科)

Q こどもの鉄欠乏は多いのですか。

A. 鉄欠乏は世界で最も多い栄養障害です。多くは発展途上国の人々に見られますが、日本や欧米などでも、決して少なくない頻度でみられます。小児での鉄欠乏になりやすい時期は、乳児期後期から2歳そして思舂期です。乳児期後期は、母体から移行した鉄が枯渇し、適切に離乳食が開始されないと鉄が欠乏します。特に母乳栄養児は注意が必要です。母乳は鉄の吸収は良いのですが含有鬘が少なく、発育盛んな乳児には鉄が不十分となります。人工栄養でも鉄の吸収効率が悪く鉄欠乏になります。思舂期には、様々な原因で鉄欠乏になりやすくなります。急激な身体成長、女児では生理の開始激しいスポーツ、ストレスによる消化管出血、体型を気にした不適切なダイエットなどが原因となります。


Q 鉄欠乏の症状はどのようなものがありますか。 

A. 鉄欠乏が進行すると貧血になります。貧血とは、血液中のヘモグロビン濃度が低下することです。ヘモグロビンは、酸素を全身に運搬している分子で、低下することで酸素欠乏による様々な症状をきたします。ところが、鉄欠乏による貧血は、徐々に進行するため、体の代償機構が働き、なかなか自覚症状が現れません。貧血が進行すると、顔色、唇の血色が減り蒼白となり、運動時の息切れ、動悸が現れ、倦怠感、めまいなどが現れます。思舂期では、氷を好んで食べる氷食症という症状が特徴的です。


Q 鉄欠乏を診断するにはどうすればいいですか。

A. 鉄欠乏を診断するためには、血液検査を行う必要があります。鉄欠乏性貧血まで進行すると、血算(血球算定)ではヘモグロビン濃度が低下し、MCVの低下を認めます。生化学検査では、血清鉄の低下、TIBC(総鉄結合能)の上昇、フェリチンの低下を認めます。鉄欠乏性貧血と診断された場合は、鉄剤を内服して、鉄が十分貯蔵されるまで、短くても3~4か月は内服を続ける必要があります。注意すべきは、貧血まで至らない鉄欠乏状態です。貧血はないので、自覚症状はほとんどありませんし、診察しても疑うことができません。血液検査で、フェリチンの低下やTIBCの上昇を認めますが、ヘモグロビン濃度の低下はありません。鉄は神経の発達や活動に重要な働きをしており、乳幼児においては神経の発達段階にあるため、この時期に鉄欠乏があると、その後の発達や認知機能に影響を及ぼ、し、 しかも不可逆的な
変化をもたらす可能性があります。調査によると、生後8~10か月の乳児では、 3%に鉄欠乏性貧血があり、貧血のない鉄欠乏は28.5%に認められました。現時点では、乳児健診などで血液検査を行うことはなく、見逃されているのが現状です。思舂期の鉄欠乏についても、中学3年生男子で12%、女子で24%に鉄欠乏があるという調査がありますが、学校では血液検査による貧血検査は必ずしも行われておらず、多くが見逃されています。 


 Q. 日常生活で気蓉つけることは何ですか。

A. 乳幼児においては、母乳栄養児や離乳食の確立が遅れている場合は、鉄欠乏に注意が必要です。すべての年齢において、顔色、口唇色、眼瞼結膜の蒼白などの貧血の症状に気をつけてください。
思舂期においては、集中力の低下、学業成續の低下、運動部での不調、氷食症などの症状にも注意してください。また、鉄欠乏にならないような食生活にも気をつけてください。

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興味をもったかたには書籍「貧血大国」もオススメです。

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