PERFECT DAYS
役所広司が主演。
アマプラで何の気無しに見始めて、引き込まれた映画。
役所広司さんは、僕が子どもの頃に、NHKの「宮本武蔵」で知ったのが最初だったと思う。父が、「元は役所づとめだったから役所っていうらしいよ」と教えてくれた。
映画の感想は、「おじさんの、おじさんによる、おじさんのための映画」。
物語は淡々と進んでいく。事件もすこし起きるがさざなみ程度。
最後のシーン、微笑んだり・悲しんだり・微笑んだり・悲しんだり 人生を象徴するような表情のアップでおわる。
なぜ、これが僕の心にも響くのか。僕も年をとったということか。
「20代の自分だったら、ちっとも面白いと思わないだろうな」
wikipediaでこの映画について調べるとその理由がいくつか、紐解けたような気がする。
1 映画監督は日本の映画監督、小津安二郎の大ファン
これをwikipediaで読んで
・主人公の「平山」という名前も小津安二郎の映画でよくでてくる主人公の名前、らしい。
・「東京物語」の令和版なんだ。という理解でいくとすべてがすっと理解できた。
2 トイレはそんなにキレイじゃない
・トイレ掃除人だが、本当に汚いトイレがうつらない。本当は汚物・吐物、注射、コンドーム、落書きなど我々が見たくないものが散乱しているはず。そういったものがきれいに画面から排除されている。マスクもしていないがこれは俳優の顔をわかりやすくだすためだろうか。
・トイレをつかう人たちが礼儀正しい人ばかり。本当は、そうじゃない人たちもいるだろう。
3 おじさんはそんなにもてないよ
・姪っ子が家出して泊まりにくる。そういう信頼関係をキープできているご家庭ばかりではないだろう。
・貧乏なのにスナックのママにもてる。 そういうのはマンガ映画の中だけ。もっとも映画の中では店ができてから5年くらいずっと通い詰めているようだから、常連として優遇されているのかもしれない。
・トイレ掃除の同僚が熱をあげている若い女にもてる。普通の人生で、おじさんは女子と一緒に音楽をきいてキスされることはない。
このあたりがおじさんたちの「そうだったらいいのにな♪」妄想欲を満たしてあげているのではないか。
4 豊かな時代のおじさんはミニマリストにあこがれている
主人公の寝室にはカセットテープと本ばかり。
毎日決まった時刻におき、布団をたたみ、顔を洗い、ヒゲを整え、缶コーヒーを買って、車で出勤する。
本当はあるべきなのに、ないものが多い。冷蔵庫、洗濯機、アイロン、炊飯器、電気ケトル・・・
スマホではなく、ケータイ。
デジカメではなく、フィルムカメラ。
この平山さん、病気になったらどうするんだろうと、ふと心配になった。
毎朝、甘い砂糖入りの缶コーヒーのみである(家でつくって持っていきなよ、と余計なおせっかいを言いたくなる)
昼はコンビニサンドイッチと牛乳
よるは毎回ではないのかもしれないが、駅の居酒屋さん
週1でスナック
こんな食生活で大丈夫なのだろうか。
しかし、毎日毎日の定型的業務をきちんとこなすこと。
掃除のように、自分のやった結果があきらかに目に見える仕事
そしてその上で発生する小さな幸せに目を向けること。
こういうことに僕らおじさんは心から飢えているのかもしれない。
このあたりになって、はたと膝をうった。
おそらく、だが。
私より上の世代で小津安二郎の映画をほめたたえている人は少なくない。
あの時代は良かった、というように。
しかし。
彼の映画もまた大いなるフィクションだったのではないか。
公開された当時の人からは、
「そんなにきれいな人間関係ばかりじゃあないよ」
「親に敬語をつかう子どもなんてもういないよ」
と思われていたに違いない。
それでもなお、そういう生活に恋い焦がれる人たちにとっては欲望の対象、あこがれの対象となっていたのだ。
映画はドキュメンタリーではない。
人々の夢をかなえてなんぼ、だし、観る人を満足させて、かけたお金を回収しなくてはならない。
そういう意味で現代のおじさんたちの欲望をこの映画は丁寧に満たしてくれているのだろう。