ドクターズブログ
小児の咳止めに科学的根拠なし?その1(2022.05.30更新) 小児科医のスギハラです。当院を受診された人の中にはおくすり手帳をよくみると、他の病院とちょっと風邪ぐすりが違うんだけどな・・・と思われる人がいると思います。 じつはそれには理由があるのです。書籍「小児のかぜの薬のエビデンス」から改変しながら説明させてください。 咳止めについてお話しましょう。 咳止めの薬には2種類あって、脳の咳中枢というところに作用して咳をおさえようとする「中枢性鎮咳薬」と去痰、気管支拡張作用を通じて咳を抑えようとする「末梢性鎮咳薬」があります。 中枢性鎮咳薬、は大きく2種類にわけることができ 麻薬性と非麻薬性に分けられます。 麻薬性 :コデインなど 非麻薬性:デキストロメトルファンやチペピジンなど 一般的には強さはコデイン>デキストロメトルファン>チペピジンと考えられています。 そのぶん、副作用としてはコデインがもっとも頻度が高く、重篤な副作用も出やすいのです。 麻薬性の咳止めと聞くと、こわい感じがするかもしれません。しかし昔から使われている薬でもあります。特別な場合をのぞいて、小児の風邪にこの麻薬性の咳止めが出されることはない、といっても言い過ぎではないでしょう。 いったいなぜ、だされることがないのでしょう。 1993年にアメリカから発表された研究 Taylor JA, et al. J Pediatr. 1993;122:799-802. PMID:8496765 では、「夜間のひどい咳」に対し18ヶ月から12才の小児にいろいろな咳止めを3パターンだして3日間追跡調査をしました。 すると麻薬性の咳止め(コデイン)グループも、非麻薬性の咳止め(デキストロメトルファン)グループも、プラセボグループも咳の症状スコアの減少はほぼ同じでした。 咳だけでなくかぜの症状全部の症状スコアも大差がありませんでした。 つまり「夜間のひどい咳」については、強い咳止めと思われていたコデインは強いわけではなさそうです。なんといってもプラセボ(偽薬)と同じレベルなのですから。 他にも大掛かりな研究がなく2014年のコクランデータベース報告によれば Wang K, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2014: CD003257.. PMID:25243777 コデインの有効性を確認した研究はいまのところなさそうです。 一方でどんな薬でもそうですが、コデインには副作用があります。 強い副作用だと 弱い副作用だと があげられます。 耳鼻咽喉科系の手術後にコデインを使用した場合、どのくらいの頻度で副作用がでたかをしらべた研究があります。 Prows CA, et al. Laryngoscope. 2014;124:1242-1250. PMID:24122716 耳鼻科で手術した小児134名のうち、106名(79%)に吐き気・嘔吐、めまい・ふらつきなどの副作用が認められました。 コデインはどうやら高い確率で副作用がでてしまう薬のようです。 コデイン使用後に死亡報告もあります。日本国内の報告では重篤な副作用の報告が数例ありますが、死亡報告はないようです。けれども米国では1969-2012のあいだに10人の子供がコデインの内服と感k連した死亡があり、2013年には3人の子どもの死亡例があります。 Tobias JD, et al. Pediatrics. 2016;138:e200162396. PMID:27647717 実はコデインの代謝能力は個人差があります。お酒もそうですよね。すぐに真っ赤になる人、そうでない人がいます。 コデインは、体内に入るとモルヒネに変換されますが、人によっては超速効型の代謝をおこす人がいてモルヒネの血中濃度が急上昇してしまい呼吸抑制をきたして死亡に至る可能性があるようです。 このように米国での死亡例があいついだため 2011年に世界保健機構(WHO)は小児へコデインを使用しないように勧告をだしました。 2012年には米国で、小児の扁桃腺摘出手術後には使用しないように勧告 2013年に欧州では12才以下の小児への投与が原則禁止。同年カナダも類似の措置。 しかし日本ではコデインを含む市販のかぜ薬が平気で売られています。 さすがに 2019年から12歳未満の小児に対し、市販薬の使用はできなくなり、処方制限になったはずなのですが アマゾンや楽天を見る限り、12歳未満は禁止とわかりやすくかかれているショップは見当たりません。 市販のかぜ薬を、おさない乳幼児にあげることは危険な行為ということもしっておきましょう。 非麻薬性の咳止め(デキストロメトルファン)などについてはまた次回に!