杉原がはちみつを処方するワケ
ハチミツの処方について
当院では咳嗽にハチミツを処方することがあります。
え?
はちみつ?
とびっくりされる方も少なくありません。
もちろん、1歳未満の方には禁止です。
赤ちゃんの場合、まだ腸内環境が整っておらず、ボツリヌス菌が腸内で増えて毒素を出すため、便秘、ほ乳力の低下、元気の消失、泣き声の変化、首のすわりが悪くなる、といった症状を引き起こすことがあります。ほとんどの場合、適切な治療により治癒しますが、まれに亡くなることもあるからです。
しかしハチミツは効果があるから処方しています。
ハチミツの効果
日経メディカルの記事(「薬よりも効果が高い?かぜの代替療法」2014/12/24)より一部抜粋
日本薬局方には「ハチミツ」が収載されている。
「外来で親に説明し、初回は薬局で処方してもらうとよい」(西村氏)。
蜂蜜入りコーヒーは、成人を対象にしたRCTでもステロイドやグアイフェネシンを含む去痰薬よりも咳嗽を軽減させている(Raeessi MA, et al.Prim Care Respir J. 2013;22:325-30.)。成人では蜂蜜単独よりも蜂蜜入りコーヒーの方が咳嗽を軽減させる効果が高いという(Raeessi MA, et al:Iranian Journal of Otorhinolaryngology.2011;23:1-8.)。
ケアネット(登録が必要です見ることができない人ゴメンナサイ)の小倉夕先生の記事(「大人の咳嗽に対してハチミツ+コーヒーが有用:2016/02/05」)より一部抜粋
大人に対してはコーヒーと合わせて飲むほうが良いそうです。
Raeessi MA, et al.
Honey plus coffee versus systemic steroid in the treatment of persistent post-infectious cough: a randomised controlled trial.
Prim Care Respir J. 2013;22:325-330.
これはイランの大学病院で実施されたランダム化比較試験です。3週間以上続く感染後咳嗽の成人患者97人(平均年齢40歳)が被験者です。お湯200mLにハチミツ20.8gとインスタントコーヒー2.9gを溶かして8時間ごとに1週間飲み続けるハチミツコーヒー群(29人)と、ハチミツ+コーヒーの代わりにプレドニゾロン13.3mgを入れるステロイド群(30人)と、同じく鎮咳薬グアイフェネシン25gを入れるコントロール群(26人)を設定し、ランダムに割り付けました。ハチミツはイランの山奥で採れたものを用いました。アウトカムは介入前と介入1週間後の咳の頻度をスコアで比較しました。
97人中12人が脱落しているのが気になりますが、残りの85人で解析が行われました。その結果、ハチミツコーヒー群とステロイド群では有意に咳嗽の頻度が減りました。スコアの変化は圧倒的にハチミツコーヒー群で高かったようです。ハチミツコーヒー群は、ほぼ咳嗽スコアがゼロになっています。
ハチミツだけでなく、コーヒーにもある程度気管支拡張作用がありますから、これも咳嗽の軽減に寄与したのかもしれません。
ケアネットの小倉優先生の記事(「ハチミツが小児の咳嗽に有効:2014/11/20」)より一部抜粋
呼吸器内科医の間では、ハチミツが鎮咳薬として有効かもしれないという話は有名です。ただし、基本的には小児の咳嗽に対して、だそうです。ご紹介するのはイタリアの研究。ミルクとハチミツを混ぜると咳嗽に対して効果があるとする研究です。
Miceli Sopo S, et al. Effect of multiple honey doses on non-specific acute cough in children. An open randomised study and literature review. Allergol Immunopathol (Madr). 2014 Sep 5. [Epub ahead of print]
この研究の冒頭にも書かれていますが、これまでハチミツが有効とされた研究は「夜にスプーン1杯(2.5mL)飲ませるだけ」という研究であり、継続的にハチミツの効果を検証した論文はないとしています。システマティックレビューでも、継続的なハチミツの効果については言及していません(Oduwole O, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2012; 3.)。
この研究では、非特異的な小児の急性咳嗽に対してハチミツを3日間連続して夜に投与し、これをデキストロメトルファンとレボドロプロピジンと比較しました。
非特異的な咳嗽のある134人の小児がランダムにミルク90mL+ハチミツ10mLあるいはデキストロメトルファン、レボドロプロピジンに割り付けられました。効果は両親からの咳嗽アンケートで評価しました。プライマリエンドポイントは鎮咳効果と治療成功としました。治療成功は、咳嗽アンケートによるスコアがベースラインから50%以上改善するものと定義しています。
その結果、治療成功率はミルク+ハチミツ群で80%、そのほかの鎮咳薬で87%でした(p=0.25)。
「蜂蜜の鎮咳作用とその活性成分に関する薬理学的研究」(東京理科大学薬学部:礒濱 洋一郎)(再生医療とDDSの融合研究部門発足記念シンポジウム:2016年1月13日)より一部抜粋;
・・・これらの成績から、蜂蜜が少なくとも一部 opioid 受容体を介して鎮咳作用を発揮することが示され、蜂蜜に含まれる鎮咳活性 成分が新たな鎮咳薬のシーズとなる可能性があると考えられる。
ハチミツ、メジコン、プラセボで、ハチミツが一番効きました、という結論の論文ですが、著者はハチミツ業界からサポートを受けているので半分間引いて受け取る必要がありそうです。
This work was supported by an unrestricted research grant from the National Honey Board, an industry-funded agency of the US Department of Agriculture.
▶プラセボと比較して、効いてるかも。
Honey for acute cough in children
ハチミツのメリット
ハチミツの良さは、咳をしたその時に飲ませることができます。中毒にもならないし、夜間に何度も飲ませることができます。
アスベリンやメジコンを何度も飲ませることはできません。
中枢性の咳止めであるアスベリンで咳をとめてしまうと、痰がひっかかってかえって苦しくなってしまいます。
だから、ハチミツでの咳止め効果が子どもにとって安全というわけです。